研究紹介(3年生向け)
柳谷研究室では超音波を発生するデバイスと医工学応用に関する研究を行っています。本研究室では実際に役立つ研究・ものづくりを目指しています。
- 超音波とは?
- 人間が聞き取れない高い振動数(周波数20kHz以上)の音波
超音波は圧電体の固有振動数で強く励振する。
圧電薄膜の応用研究
1.抗原抗体反応センサ
先進国では医療介護費の増大が社会問題となっており、軽減には予防医学の進展が重要です。本研究では、超音波振動の変化から病変マーカー(がんマーカー)たんぱく質を検出するセンサを開発しています。
例えば、固有振動している橋げたに車が通ると、その重みによって固有振動数は変化します。同様に後退が生えたナノサイズの橋げたに抗原が付着すると、これを抗原抗体反応といいますが、固有振動数は変化し、その変化量から逆に抗原濃度の推定ができます。
しかし実は、通常の圧電薄膜は縦波振動するため、バイオ用途には使えないという問題があります。生体材料などの液体を薄膜に付着させると振動のエネルギーが液体に漏れていってしまい、振動できないのです。
本研究室では世界で初めて純横波を発生させる圧電薄膜を発見しました[1,2]。これにより液中でも振動を持続できるようになりました。研究室では微小な超音波振動変化から25メートルプールにスプーン一杯分の抗原を高感度検出(世界最高水準)することに成功しています。
この技術はバイオ用途だけでなく、液体中の分子間相互作用であれば威力を発揮するため、燃料電池のモニタリングや環境センサなどへの応用も期待できます。
※本成果は電気メーカおよび他大学との共同研究によるものです。
[1] T. Yanagitani and M. Kiuchi, “Control of in-plane and out-of-plane texture in shear modepiezoelectric ZnO films by ion-beam irradiation,” J. Appl. Phys., vol. 102, no. 4, 044115, (2007).
[2] T. Yanagitani, M. Kiuchi, M. Matsukawa, and Y. Watanabe, “Characteristics of pure-shear mode BAW resonators consisting of (11-20) textured ZnO films,” IEEE Trans. Ultrason., Ferroelectr., Freq. Contr., vol. 54, no. 8, pp.1680?1686, (2007).
2.微小粘度センサ
医療現場やバイオ研究現場では、血液などの液体の粘度評価が重要であり、特に一滴程度の微少量の液体が測定可能な技術が望まれています。本研究では液体と固体界面を伝搬する弾性表面波の音速変化から、液滴の粘度を測定する技術を研究しています。
通常の弾性表面波(レイリー波)は下図のように液体にエネルギーを漏洩してしまい、液体材料を計測することはできません。通常の圧電薄膜の分極は厚さ方向を向いており、レイリー波を励振します。これに対して、本研究室では分極方向が面内に向いた薄膜の開発に成功し、世界で初めて薄膜を使った横波型弾性表面波の発生を実現しました[3,4]。これにより、複雑な曲面やスライドガラス上に横波型弾性表面波を発生させることができ、微小液体センサ応用への期待が膨らんでいます。
※本成果は電気メーカおよび他大学との共同研究によるものです。
[3] A. Tanaka, T. Yanagitani, M. Matsukawa, Y. Watanabe, “Propagation characteristics of SH-SAW in (11-20) ZnO layer/silica glass substrate structures,” Proc. IEEE Ultrason. Symp., pp. 280?283, (2007).
[4] Y. Nakahigashi, T. Yanagitani, M. Matsukawa, Y. Watanabe “c-axis parallel oriented ZnO film SH-SAW sensor for electrical conductivity measurement in liquid,” Proc. IEEE Ultrason. Symp. pp. 810?813 (2011).
3.超高感度超音波プローブ
近年、車載エレクトロニクス部品のように信頼性が要求されるデバイスが増えてきており、超音波顕微鏡による検査技術の向上は重要課題となっています。部品の微細化・積層化が急速に進んでいることからも検査装置の高分解能化は急務です。超音波顕微鏡(映像装置)では、下図のような圧電薄膜と音響レンズからなる超音波プローブ(トランスデューサ)を用いて、水カプラを通して部品に集束超音波を照射するものがほとんどです。その反射波を再びプローブで受波することにより、部品内の欠陥を映像化します。この際映像の分解能や鮮明さはプローブの周波数の高さや感度の高さで決定されることになります[5]。
本研究室では最近、YbGaN薄膜における巨大圧電効果の発見[6]やScAlN薄膜における極性反転現象を発見[7,8]しており、これまで使われているZnO圧電薄膜の5倍以上の高感度化が実現できる可能性が出てきています。さらにこれらの技術を使った、治療現場における生体組織の高分解能医用イメージングへの期待も高まってきています。
[5] 柳谷隆彦、鈴木雅視、高柳 真司「非破壊検査用の高分解能超音波プローブ」日本音響学会誌 vol. 71, no. 5, pp. 230?238 (2015)
[6] T. Yanagitani and M. Suzuki, “Enhanced piezoelectricity in YbGaN films near phase boundary,” Appl. Phys. Lett., 104, 082911 (2014).
[7] M. Suzuki, T. Yanagitani and H. Odagawa, ”Polarity-inverted ScAlN film growth by ion beam irradiation and application to overtone acoustic wave (000-1)/(0001) film resonators,” Appl. Phys. Lett., 104, 172905 (2014).
[8] T. Yanagitani and M. Suzuki, “Electromechanical coupling and gigahertz elastic properties of ScAlN films near phase boundary,” Appl. Phys. Lett., 105, 122907 (2014).
5.強誘電体エピ薄膜の分極反転現象を用いたスマートフォン用周波数可変フィルタ
工事中
[9] K. Katada, T. Yanagitani, M, Suzuki and K. Wasa, “Second harmonic mode polarization inverted resonator consisting of PbTiO3 thin film,” Proc. IEEE Freq. Contr. Symp., (2014).
6.音波とキャリアの相互作用を用いたワイドバンドギャップ半導体評価
工事中
[10] T. Yanagitani, H. Sano, and M. Matsukawa, “A method for measuring in-plane unidirectional electrical properties in a wide band-gap semiconductor using a Brillouin scattering method,” J. Appl. Phys., vol. 108, pp. 024910-1?024910-4, (2010).
7.音響電気効果を用いた液体導電率センサ
工事中
8.c軸平行反転多層膜を用いた非線形光学素子
工事中
9.c軸平行らせん配向膜を用いたキラリティ光学素子
工事中
[11] M. Suzuki, T. Yanagitani, H. Odagawa, “Polarization inverted (0001) / (000-1) ScAlN film resonators operating in second overtone mode,” Proc. IEEE Ultrason. Symp. pp. 1922?1924, (2012).
10.c軸平行配向薄膜を用いた紫外線センサ
工事中
参考: 本研究室では活発な学会活動を行っています。大学院生の場合は平均的に年間で国際学会1件、国内学会4件程度の発表を行っています。