研究紹介(企業の方向け)
5G以降のスマートフォン向けフィルタ(BAWフィルタ)の開発支援
現在、スマートフォンには数々の無線周波数から欲しい周波数帯を送受信するためのフィルタが搭載されています。また、スマートフォンに最適な数GHz帯の周波数は無線LANなど他のさまざまな情報通信用途に使われ、使用できる帯域がひっ迫しているのが現状です(周波数資源と呼ばれることもあります)。通常の無線用バンドパスフィルタはインダクタンスとコンデンサ素子を組みわせば作製することができます(LCフィルタ)。しかしながら、数GHz帯ではそれぞれの通信帯域がギリギリの間隔で並んでおり、LCフィルタではQ値(フィルタの鋭さ)が足りず混信してしまいます。例えば、米国の2 GHz携帯電話システムでは上りと下りの帯域の間が、たったの20 MHzしかないものもあります。
これらの要求を満たすために、スマートフォンでは超音波(弾性波)を使ったフィルタが採用されています。電気共振より機械共振の方がQ値が高いのが理由です。フィルタには機械共振を電気共振として取り出すために、圧電効果を持つ材料が使われます。通信に使う電磁波が圧電材料に入力されると、その電気エネルギーは圧電効果を介して音波に変換されます。その音波が材料の寸法で決まる固有振動数で共鳴(共振)し、逆圧電効果により再び電気信号に変換されることで、フィルタとして働きます。つまり、音波共鳴が電気共振に比べて著しくQ値(鋭さ)と温度安定性が高いことを利用して、高性能フィルタを達成しています。
現状では、圧電単結晶基板上を伝搬するSAW(ソウ、弾性表面波)がフィルタに主に用いられています。しかし最近では、スマートフォンはそのデータ量の多さから超高周波で通信するため、できるだけ高い周波数で音波共鳴させる必要がでてきています。5Gの4 GHz付近以上の周波数ではSAWフィルタは使えなくなることが予想されています。そこで、4 GHz以上に対応できる圧電薄膜の共振を使ったBAW(ボウ)フィルタ(別名:FBAR(エフバー)フィルタ)と呼ばれる方式が徐々にシェアを上げています。この方式では固有振動数を上げるために圧電材料を薄膜化させますが、なかなか良い材料がないのが現状です。例えば、圧電材料の王様のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などは誘電損失と音響減衰が大きく、GHz帯で使うのは難しくなります。
そんな中、我々のグループは、高圧電性、低誘電損失、低音響減衰の三拍子が揃った、窒化物新圧電材料(非公開)を次々と発見しています。また、ウエハの状態でデバイス作製前に圧電薄膜の電気機械結合係数を抽出する新しい手法についても発見し、標準化を目指しております。現在ではフィルタ用の新規材料探索や圧電薄膜の評価委託について多数のデバイスメーカやウエハメーカと共同研究・情報交換を行っております。
スマートフォンに搭載される部品の多くが1個あたり数円程度なのに対して、無線フィルタはその数十倍以上もの値がつき、非常に大きなビジネスになっています。国際ローミングの影響で、1台の携帯電話に搭載されるフィルタの数は50個程度にもおよび、各々の無線規格に対応できる圧電材料がますます要求されています。 圧電・弾性波デバイス分野では開発に必要な技術水準が高く、人件費と物価の安い他国に真似されにくいのも大きな特長です。そのためこの分野は国内メーカがまだ世界のトップシェアを占めることが許されています。圧電デバイス分野は決して良く知られた分野ではございませんが、日本が強みを持つ国産技術として、ご支援頂けると幸いと思っております。
下記内容について共同研究可能です。
(1)ウエハ付き圧電薄膜の電気機械結合係数、音速、誘電率の分布評価
(2)新規ドーピング、新規圧電薄膜材料の探索研究(酸化物、窒化物)
ScAlN自立基板(0.1mm)の供給と応用デバイス開発
研究室で開発しているScAlNのkt2(薄板に対する電気機械結合係数)は低く見積もっても22%まで達しており、非鉛材料にも関わらずPZTセラミックス薄板のkt2=25%に匹敵する性能になっております。にLiNbO3やPMN-PT単結晶薄片に比べると、将来、大面積成長の可能性があることと集束超音波トランスデューサなどの湾曲材に成長可能なことが利点です。